17 8月 「OneMix3 Proプラチナエディション」は、何が“プラチナ”なのか 「OneMix3S+」もチェックした
2020年07月07日11時00分公開 [長浜和也, 撮影:矢野渉,ITmedia]
超小型PCなのにCore i7を載せちゃった
中国One-Notebook Technologyの「OneMix3 Proプラチナエディション」(以下、OM3Pプラチナ)は、従来モデル「OneMix3 Pro」(以下、OM3P)から、搭載するCPUを強化(Core i5-10210Y→Core i7-10510Y)した、8.4型ディスプレイを搭載する“超小型PC”と呼ばれるカテゴリーの製品だ。日本市場では、テックワンが5月から取り扱いを開始し、一部の量販店などでも展開している。
直近では、超小型ゲーミングPC「OneGx1」や手頃なモデル「OneMix1S+」が発表され、こちらは8月に発売の予定だ。
OneMix3 Proプラチナエディション
なお、OM3Pプラチナと同じタイミングで、CPUに2コア4スレッドのCore i3-10110Y(1GHz~4GHz)を採用した「OneMix3S+」(以下、OMP3S+)が登場した。
名称から、従来モデル「OneMix3S」の後継と思うかもしれないが、システムメモリがOneMix3Sの16GBと比べて8GBにとどまることと、同様にテックワン直販のOne-Notebookストアの税別価格が11万800円→9万6800円と低く設定していることから、OneMixのラインアップにおける位置付けとしては、OneMix3 Proシリーズのローエンドモデルと考えるのが妥当だ。
OneMix3S+
OneMix3 Proプラチナエディション(左)、OneMix3S+(中)、NANOTE(右)のボディーサイズ比較
OneMix3 Proプラチナエディション(下)、OneMix3S+(中)、NANOTE(上)の厚さ比較
このように、既に登場しているOM3Pを含めた「OneMix3Pro」シリーズで採用したCPUの主な仕様を比較すると次のようになる。
モデル名 | OM3Pプラチナ | OneMix3Pro | OMP3S+ |
---|---|---|---|
プロセッサー・ナンバー | Core i7-10510Y | Core i5-10210Y | Core i3-10110Y |
コア数 | 4 | 4 | 2 |
スレッド数 | 8 | 8 | 4 |
ベースクロック | 1.2GHz | 1GHz | 1GHz |
ターボ・ブースト有効時最大クロック | 4.5GHz | 4GHz | 4GHz |
スマートキャッシュ | 8MB | 6MB | 4MB |
TDP | 7W | 7W | 7W |
コンフィグラブルTDP-downクロック | 400MHz | 600MHz | 700MHz |
コンフィグラブルTDP-down | 4.5W | 5.5W | 5.5W |
グラフィックスコア最大動作クロック | 1.15GHz | 1.05GHz | 1.0GHz |
メモリ | 16GB | 16GB | 8GB
|
OM3PプラチナとOM3Pの比較で言うと、CPU強化後も、同じ第10世代Coreで物理コア数と同時対応スレッド数は変わらない上に、消費電力と発熱に影響するTDPも7Wと変わらない。ただし、動作クロックは向上し、スマートキャッシュ容量も増えている。
この他、CPU以外で処理能力に影響する内部構成については、システムメモリ容量がOM3+だけが8GBで他は16GBとなっており、ストレージの容量と接続バス規格は3モデル共通で、PCI Express接続のSSDを採用する(ただし容量はOM3S+のみ256GBで他は512GB)。
このように、特にOM3PプラチナとOM3Pの違いは「CPUの動作クロックとスマートキャッシュ容量」だけとなる。そのOM3PプラチナとOM3S+の処理能力を、ベンチマークテストで測定した。
モデル名 | OM3Pプラチナ | OM3S+ |
---|---|---|
PCMark 10 | 3332 | 2598 |
CINEBENCH R20 CPU | 912 | 599 |
CINEBENCH R20 CPU Single | 322 | 315 |
3DMark Night Raid | 4102 | 3001 |
ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク(標準品質ノートPC) | 1857 | 953 |
CrystalDiskMark 7.0.0 x64 SEQ1MQ8T1 Read | 1450.63 | 1388.60 |
CrystalDiskMark 7.0.0 x64 SEQ1MQ8T1 Write | 803.84 | 777.95 |
BBench 1.0.1 | 6時間27分38秒 | 7時間8分55秒 |
さすが4コア8スレッドで、最大動作クロック4.5GHzのCPUを搭載しているだけあって、OM3PプラチナのスコアはCore i5クラスのCPUを搭載した13.3型ディスプレイ搭載モバイルPCを上回る。
OM3S+のスコアはCPUの処理能力を反映するPCMark10やCINEBENCH R20、グラフィック描画処理能力を反映する3DMarkにFF XIVは差がついてしまうものの、PCI Expressバスに接続したSSDによってストレージの転送速度を測定するCrystalDiskMarkではそれほど大きな差は出ていない。ストレージの転送速度は体感で分かるところで、実際使っていると文章入力やFacebook、TwitterなどのSNS閲覧であればOM3Pプラチナと使い勝手は大きく変わらない。
高い処理能力とトレードオフの表面温度
コンパクトなボディーのPCが、Core i5クラスのCPUを搭載した13.3型ディスプレイを搭載するモバイルPCを超えるベンチマークテストスコアを出すあたり、“見た目のギャップ”に驚いてしまうが、それだけに“無理をしている”ところもある。
それが如実に出てしまうのがクーラーファンの発する音量とボディーの表面温度だ。負荷の高いベンチマークテストを走らせると、ボディーに内蔵したクーラーファンが全力で回り始めるが、その音はさすがに大きい。そして、全力でファンを回しているものの、ボディー表面は、思わず「おっと」と声が出るほどに熱くなる。
実際に、OM3Pプラチナで3DMarkの「Night Raid」を走らせて、騒音計と非接触タイプの赤外線温度計で測定した表面温度と音量は以下のようになった。
ファン回転設定&電源プラン | 全力回転&パフォーマンス | 抑制回転&パフォーマンス | 全力回転&バッテリー | 抑制回転&バッテリー |
---|---|---|---|---|
発生音量 | 44.23dBA | 37.4dBA | 45.38dBA | 39.2dBA |
表面温度(Fキートップ) | 41.3度 | 38.6度 | 39.2度 | 41.1度 |
表面温度(Jキートップ) | 41.5度 | 39.6度 | 40.9度 | 42度 |
表面温度(パームレスト左) | 40.1度 | 39度 | 38度 | 39度 |
表面温度(パームレスト右) | 42.2度 | 40.9度 | 40.4度 | 42.3度 |
表面温度(底面) | 51.0度 | 48.7度 | 50.1度 | 49.6度 |
OneMixシリーズは、クーラーファンの回転数を制御するボタンを用意している。全力回転、抑制回転の2段階に設定可能で、ファンのアイコンを刻印した「@」キーをFnキーとセットで押すと全力/抑制を切り替えられる。
加えて、ファンの回転モードを切り替えるとCPUの動作クロックも変化する。3DMarkのモニタリングでCPUの動作クロックのグラフを確認すると、全力回転設定時と比べて抑制回転設定時のCPU動作クロックは低く推移しているのが分かる。
全力回転&パフォーマンス設定で3DMark NightRaidを走らせたときのCPU動作クロックの推移。CPUテスト開始直後は4GHzに近い動作クロックがその後1.7GHz前後まで下がる
抑制回転&パフォーマンス設定におけるCPU動作クロックの推移。CPUテスト直後は3GHz前後、その後1GHz前後となり、全力回転設定時と比べて動作クロックを低く抑えている
以上のことから、測定結果では、ファン回転数の設定ごとに表面温度と発生音量に加え、Night Raidのスコアも併記する。なお、測定時の室内温度は27.3度で、暗騒音は37.8dBAだった。
ファン回転設定&電源プラン | 全力回転&パフォーマンス | 抑制回転&パフォーマンス | 全力回転&バッテリー | 抑制回転&バッテリー |
---|---|---|---|---|
3DMark NightRaid | 4007 | 2793 | 3995 | 2811 |
キーボート、パームレストの表面温度は、PCに向かって右側領域で高くなる。Jキーのキートップとパームレスト右側では42度まで上がる。お風呂ならちょうどいい加減だが、金属のパームレスト(そして本体右側面)に手が触れると「うぉっとー」と思わず声が出るぐらいには熱く感じる。
底面は50度前後まで上がる。ここまで熱いと「うぉっとー」では済まなくなる。少なくとも今回の評価作業で「膝の上に置いて使う」というのは、例え長ズボンを履いていても熱くてできなかった。
発生音量は、抑制回転設定にすると明らかに小さくなる。全力回転設定では図書館や静かな喫茶店で使うのをはばかるぐらいうるさかったが、抑制回転設定にすると、ファンの音はほぼ聞き取れないほどだ。一方で、表面温度の測定値はファンの回転数を変更しても大きくは変わらなかった。
なお、OM3Pプラチナは従来のOneMixシリーズと同様、ディスプレイを360度開いてタブレットスタイルでも使える2in1 PCでもあるのだが、表面温度がここまで熱くなると「本体をもってある程度の時間使い続ける」のは(少なくとも私個人としては)推奨できない。2in1 PCとして言及がないのもそのためだと理解していただきたい。
次にキーボードを見ていこう。
超小型PCでは秀逸のキーボード(ただし条件付き)
冒頭で述べたように、OM3Pプラチナは、従来モデルOM3PのCPU強化モデルという位置付けだ。CPU以外の仕様はOM3Pから変わらない。そのため、超小型PCで使い勝手が気になるキーボード構成やディスプレイの視認性、本体のサイズと重さに関する考察は以前掲載したOM3Pのレビューで述べた見解と同じになる。
無線LANはWi-Fi 5までの対応で、Wi-Fi 6には非対応だ。また、ビデオ会議の普及で需要が増えているWebカメラも本体に内蔵していない。
OM3Pプラチナ。画面解像度は2560×1600ピクセルでタッチ操作にも対応する
キーボードはピッチが約18.2mm、ストロークは実測で1mm、タイプの感触(押し込んだ感触を明確に認識できて押し込んだ指をしっかりと支えてくれる)など、超小型PCの中では最も快適ながら、「-」(長音)と「カギカッコ」キー(“「”と“」”)の配置が、ホームポジションに置いた手から通常の運指(右手中指、もしくは薬指)でタイプしづらい位置にあって、特に文章入力で作業リズムが中断しやすい難点はそのまま残っている。
なお、この3つのキーのタイプに対する考察について、「右手、もしくは左人差し指を使えば改善する」という指摘があった。実際に試してみると、人差し指を使えばホームポジションにおいた手を動かさなくてもタイプは可能だった。ただ、通常の運指と異なるため、ある程度習熟が必要なことと、中指より短い人差し指を使うことで運動量は多いことなど、1週間程度の評価作業期間で「意識せずに」文章入力中に3つのキーをタイプするまでには至らなかった。
本体の重さは約670gで、テックワン直販のOne-Notebookストアの価格でOM3Pプラチナは12万5100円、OM3S+は8万7120円(どちらも税別、原稿執筆時)になる。本体の重さとOM3Pプラチナの価格を考えると、それぞれ「もう少し足せば」13.3型ディスプレイを搭載して本体の重さが700g台のモバイルPCが購入できる。パフォーマンス重視のユーザーで、購入予算に余裕があるなら、モバイルPCとよく比較して検討するのが望ましいかもしれない。
一方で、PCを使うスペースをとにかく節約したくて、それでいて、キーボードがある程度ストレスなく利用でき、かつ、利用する目的として処理能力をそれほど重視しないユーザーならば、OM3Pプラチナは貴重な選択肢となるだろう。
写真で見るOM3PプラチナとOM3S+
ここからは、本文で紹介しきれなかったOM3S+の本体回りについて、写真で見ていこう。マルチタッチのみに対応した8.4型液晶ディスプレイを搭載する。画面解像度は2560×1600ピクセルだ